こんにちは、M&Aアドバイザーの松金です。
M&Aの検討が進むと、買い手企業から売り手へ「意向表明書」を提出する場面があります。
意向表明書というと、「いくらで買いたいかを書く書面」という印象を持つ方もいるかもしれません。
しかし、実際には買収価格だけを伝える書面ではありません。
なぜこの会社を買いたいのか、どのような条件なら買収を検討できるのか、買収後に何を大切にしたいのかを、買い手から売り手へ伝える書面でもあります。
また、意向表明書を提出するタイミングも案件によって異なります。相対方式ではトップ面談後に提出することが多い一方、入札(オークション)方式や、複数の買い手候補が並行して検討している案件では、トップ面談前に提出を求められることもあります。
どの段階で提出する場合でも、買い手にとって重要なのは、その時点で得られている情報をもとに、自社として何を、どこまで提示するのかを整理することです。
この記事でわかること
- M&Aの意向表明書(LOI)の役割
- 買い手がLOIを提出する4つの目的
- LOIで整理する主な条件
- 買収価格をどのように提示するか
- 価格以外で売り手に伝えたいこと
- LOI提出後の価格・条件交渉で注意したいこと
M&Aの意向表明書(LOI)とは
意向表明書は、買い手候補が売り手に対して、M&Aを進めたい意思と、その時点で想定している買収価格や取引条件などを示す書面です。
意向表明書は、英語のLetter of Intentから「LOI」と呼ばれたりします。
案件によって、買収価格、取引スキーム、買収目的、資金調達、買収後の経営方針、役員・従業員の処遇、スケジュールなどを記載します。何を盛り込み、どこまで具体的に示すかは案件ごとに異なります。
なお、「LOI」という言葉は基本合意書を指して使われることもあります。中小企業庁の「中小M&Aガイドライン」でも、基本合意書を「LOI」「MOU」と呼ぶと説明されています。本記事では、買い手が買収意向や希望条件を売り手へ示す意向表明書を「LOI」と表記します。
買い手がLOIを提出する4つの目的
買い手にとってLOIは、条件を提示するだけの書面ではありません。主に次の4つの役割があります。
1.買収意思を具体的に示す
口頭で「前向きに検討しています」と伝えるだけでは、買収価格や条件を含めた具体的な検討内容までは伝わりません。
LOIとして買収目的や価格、条件などを文書にすることで、「この条件を前提に、具体的に買収を検討したい」という意思を売り手へ示します。
複数の買い手候補がいる案件では、売り手にとってLOIは、価格やその他の条件、買収目的、買収後の方針などを比較する材料にもなります。
2.譲渡条件の大枠をすり合わせる
記載する項目は案件によって異なりますが、LOIでは、その案件で重要となる買収価格や取引スキーム、スケジュールなどの主要条件を示し、大枠の方向性を確認することがあります。
たとえば、売り手が2億円を譲れない条件と考えている一方、買い手が1億円程度までしか検討できず、その価格差を調整できる見込みもない状態でデューデリジェンス(DD)へ進めば、双方が費用と時間をかけた後に交渉がまとまらない可能性があります。
価格以外にも、売り手は早期の引退を希望しているのに、買い手は一定期間の経営継続を前提としているなど、重要な条件に隔たりがあることがあります。
主要な条件に大きな隔たりがあるのであれば、DDに費用や時間をかける前に確認し、調整できるのかを見極めておくことが重要です。
3.DDに進む前提を整える
デューデリジェンスでは、それまでより詳細な財務、税務、法務、事業などの情報を売り手側から開示してもらうことになります。
一方、買い手側にも、専門家へ支払うDD費用だけでなく、資料の確認、専門家との打ち合わせ、社内での検討など相応の工数がかかります。
そのため、詳細な調査へ進む前に、売り手側では「この買い手にさらに情報を開示して検討を続けるか」、買い手側では「この価格や条件を前提とするならDDに費用と工数をかけてよいか」を判断することになります。
LOIには、「ここまで踏み込んで検討する意思がある」と買い手の意思を具体化し、DDへ進む前提を整える意味もあります。
4.独占交渉につなげる
複数の買い手候補がいる案件では、買い手がLOIの中で一定期間の独占交渉を希望することがあります。
ただし、LOIを提出しただけで自動的に独占交渉権が得られるわけではありません。
売り手が意向表明書への応諾書を提出する、あるいはその後に基本合意書を締結するなどして独占交渉について合意すれば、一定期間、他の買い手候補との並行交渉を止め、DDや条件交渉に集中して進めやすくなります。
中小企業庁の資料でも、入札手続を行う場合などに、買い手の意向表明書に対して売り手が応諾書を提出することで、基本合意とほぼ同様の合意として扱う場合があるとされています。
独占交渉は買い手にとって重要な論点です。DDには費用と社内工数がかかるため、相応の費用と時間をかけて調査している途中で、対象会社が別の買い手へ売却されるリスクはできるだけ避けたいからです。
そのため、LOI提出からその後の交渉へ進む際には、独占交渉をどの段階で、どの程度の期間確保するのかも検討事項になります。
LOIを作る前に、売り手が大切にしていることを整理する
LOIを作成する際、私は売り手経営者が今回のM&Aで何を大切にしているのかを、可能な限り事前に読み取ることを重視しています。
売り手の希望は、必ずしも「最も高く売りたい」だけではありません。
従業員の雇用を守りたい、会社名を残したい、長年の取引先を大切にしてほしい、自分は一定期間で引退したい、反対にしばらく経営に関与したい、新しく始めた事業は継続したいなど、さまざまな希望を持っていることがあります。
トップ面談をすでに行っている案件であれば、そこで得られた情報はLOIを組み立てる重要な材料になります。
トップ面談で売り手の考えを確認する際は、
「M&Aのトップ面談で買い手が聞くべき質問|確認したいポイントと質問例」
も参考にしてください。
一方、トップ面談前にLOIを提出する案件では、売り手本人から十分な話を聞けていないこともあります。
その場合は、IM(企業概要書)、決算書、仲介会社から提供された情報、売り手から提示されている希望条件などをもとに、「売り手は何を重視しているのか」「この案件では何が比較されるのか」という仮説を立てます。
また、売り手自身が希望の優先順位を明確に言葉にできているとは限りません。
たとえば、「引退したいが、新規事業にはもう少し関わりたい」「経済的な条件も重要だが、従業員の今後も心配だ」というように、複数の希望が併存していることがあります。
その場合、買い手が考えるべきなのは、どちらか一方を選んでもらうことではありません。
自社として実現できること、できないことを整理したうえで、売り手の希望をどのような条件なら両立できるのかを考えることが重要です。
LOIで買い手が整理する主な条件
案件ごとに内容は異なりますが、LOIを作成する際に買い手側で検討する項目には、次のようなものがあります。
横にスクロールできます。
| 項目 | 主な内容 | 買い手が考えること |
|---|---|---|
| 買収目的・評価ポイント | なぜ対象会社を買いたいのか | 対象会社だからこその理由を具体化できるか |
| 買収価格 | 金額、レンジ、価格の前提 | 現時点でどこまで提示できるか |
| 取引スキーム | 株式譲渡、事業譲渡など | 何をどの方法で取得するのか |
| 資金調達 | 自己資金、融資など | 買収を実行できる見通しはあるか |
| DD | 実施予定、確認事項など | 何を重点的に確認する必要があるか |
| 売り手経営者の処遇 | 退任、一定期間の継続関与など | 引継ぎをどのように行うか |
| 従業員・その他役員 | 雇用、待遇、役員の処遇など | 現時点でどこまで方針を示せるか |
| 買収後の経営方針 | 事業、会社名、拠点など | 売り手の希望とどう調整するか |
| スケジュール | DD、契約、クロージングなど | 現実的に実行できる日程か |
| 独占交渉 | 独占交渉の希望、期間など | DD・交渉に集中できる環境をどう確保するか |
| 意向表明の有効期限 | 提示した条件の有効期間 | いつまでを前提とする提案なのか |
中小企業庁の「中小M&A専門人材向けスキルマップ」でも、意向表明書の提案内容として重要になり得る論点として、M&A実施の目的、M&Aのスキーム、希望する譲渡額、買収に係る資金調達方法、スケジュール、意向表明の有効期限、M&A後の経営方針、従業員・役員の処遇などが整理されています。
これらがすべての案件で必須の記載事項というわけではありません。
売り手が従業員の雇用を特に重視している案件と、経営者が早期に引退できることを最優先している案件では、LOIで伝えるべき内容も変わります。
LOIの買収価格は、案件に合わせて書き方を考える
LOIで買収価格をどのように記載するかについて、「いつもこの形式」という正解があるわけではありません。
一つの金額を提示する場合もあれば、一定の幅を持たせる場合もあります。価格の前提条件を付けて提示することもあります。
私自身も、LOIでは必ずこの形式で価格を書く、と決めているわけではありません。
判断する際には、売り手の希望金額がどの程度固いのか、現時点の決算書や資料から価格調整要因がどの程度見えているのか、競合する買い手がいるのか、DD前の段階でどの程度確度のある評価ができるのか、売り手との価格交渉の余地がどの程度ありそうかなどを見ます。
同じ対象会社でも、競合買い手がいない場合と複数いる場合では、提示方法の考え方が変わることがあります。
価格の書き方そのものも、交渉設計の一部です。
一方で、LOIに記載する価格は、DD前の限られた情報に基づいている場合があります。そのため、LOI記載額がそのまま最終的な買収価格になるとは限りません。
買収価格を考える際は、
「M&Aの買収価格はどう判断する?『企業価値』と『自社が払える価格』は違う」
も参考にしてください。
「後で下げればよい」と高値を出すのは危険
買い手側で注意したいのが、「まず高い価格を提示して選ばれ、独占交渉に入ってから価格を下げればよい」という考え方です。
意向表明書は最終契約そのものではありませんし、DDによって新たな事実が判明すれば、価格や条件を見直すことはあります。
たとえば、想定していなかった簿外債務が判明した、正常収益力が事前説明より低かった、重要取引先の継続に大きな懸念が見つかった、多額の追加投資が必要だと分かった場合などです。
こうした新しい事実を踏まえて価格・条件を見直すことと、LOI提出時から分かっていた事情を後になって減額理由として持ち出すことは分けて考える必要があります。
当初から業績上の問題が分かっていたにもかかわらず、それを考慮せず高い価格を提示し、独占交渉に入ってから「この問題があるので下げたい」と言えば、売り手は納得しにくいでしょう。
場合によっては、「最初から高値で選ばれることだけが目的だったのではないか」と受け取られ、信頼関係そのものが崩れます。
M&Aでは、LOI提出後もDD、条件交渉、最終契約、クロージング、場合によっては買収後の引継ぎまで、売り手との関係が続きます。
LOIで選ばれることだけを目的にせず、その後の交渉まで見据えて価格を提示することが重要です。
価格以外で売り手に選ばれるLOIもある
複数の買い手が競合している案件では、価格が重要な選定要素であることは当然です。しかし、売り手が何を重視するかは案件によって異なり、価格だけで買い手が決まるとは限りません。
案件によっては、LOI本文だけでなく、PowerPointの別添資料を作成したり、買い手企業の経営者から売り手経営者への手紙を添えたりすることがあります。
そこで伝えたいのは、単なる「熱意」ではありません。
対象会社のどこを評価しているのか、どの事業に魅力を感じているのか、買収後にどのような会社を目指したいのか、売り手経営者が大切にしてきたものを買い手としてどう考えているのかを、対象会社ごとに具体的な言葉で伝えることが大切です。
私が支援した案件でも、こうした方法で価格以外の部分を具体的に伝え、買い手として選んでいただいた例があります。
ただし、これは「手紙を付ければ有利になる」「プレゼン資料を付ければ選ばれる」という話ではありません。
重要なのは、「この会社だから買いたい」という理由が具体的に伝わることです。
買収目的や評価ポイントが抽象的なLOIは弱い
LOIでは価格や取引条件の記載に目が向きがちですが、私は「なぜ買いたいのか」という部分も重視しています。
買収目的が「事業拡大のため」「シナジーを期待している」「新規分野へ進出するため」だけでは、売り手から見れば他の買い手との違いが分かりません。
対象会社のどの顧客基盤を評価しているのか、どの技術・人材・ノウハウに価値を感じているのか、自社のどの経営資源と組み合わせられるのか、買収後にどのように成長させたいのかまで具体化できれば、買収を検討している理由も伝わりやすくなります。
売り手経営者にとって会社は、長い年月をかけて育ててきた事業です。
単に「利益が出ているから買いたい」という買い手と、「この会社の何に価値があるのか」を理解している買い手とでは、受け止め方が違ってきます。
売り手の希望に応えることと、約束しすぎることは別
一方で、売り手に選ばれたいからといって、何でもLOIに書けばよいわけではありません。
従業員の雇用や待遇、会社名、拠点、売り手経営者の継続関与などについて、その時点で本当にどこまで約束できるのかを慎重に考える必要があります。
M&Aを進めれば、DDによって新たな事情が分かることがあります。買収後の経営環境が変わる可能性もあります。
そのため、まだ社内で決めていないことや、実現可能性を確認できていないことまで断定的に約束するのは避けたいところです。
売り手に選ばれるための魅力的なLOIと、後で守れない約束を書いたLOIは違います。
売り手が大切にしていることを理解しながら、自社が現時点でどこまで示せるのかを整理する必要があります。
LOIの法的拘束力はどう考えるのか
意向表明書は、最終契約そのものではありません。
中小企業庁の「中小M&A専門人材向けスキルマップ」では、後続のプロセスでのトラブルを避けるため、意向表明書に法的拘束力がない書類であること、後続の調査・調整によって内容が変更される可能性があることを明記するよう示されています。
一方、「中小M&Aガイドライン」では、基本合意書について、基本的には法的拘束力がないものの、独占的交渉権や秘密保持義務などについては法的拘束力を認めることが通常とされています。
ただし、法的拘束力が限定されているからといって、一度提示した価格や条件を合理的な理由なく自由に変更してよいということではありません。
DDで新たな事実が判明した場合など、価格や条件を見直す合理的な理由があるかどうかは、その後の交渉や売り手との信頼関係にも大きく影響します。
また、実際の書面でどこまで法的拘束力が生じるかは、記載内容や当事者間の合意によって異なります。個別の法的判断が必要な場合は、弁護士に確認する必要があります。
参考:中小企業庁「中小M&A専門人材向けスキルマップ」/中小企業庁「中小M&Aガイドライン」
LOI提出後はどう進むのか
LOIを提出したからといって、その時点で買収条件がすべて確定するわけではありません。
複数の買い手候補がいる場合、売り手側は提出されたLOIを比較し、次に交渉を進める相手を検討します。
その後、条件を調整し、売り手から意向表明書への応諾書を得る、基本合意書を締結するなど、案件に応じた形で次のプロセスへ進みます。
独占交渉が合意されれば、その期間にDDを実施し、財務・税務・法務・事業などの詳細を確認します。
DDによって事前には分からなかった問題が判明すれば、その内容を踏まえて買収価格やその他の条件を再検討します。
そして、最終的な条件を調整したうえで最終契約、クロージングへ進みます。
LOI提出時点から、DD後の条件交渉までを一続きで考えておくことが重要です。
買い手FAはLOI作成で何を支援するのか
買い手FAのLOI作成支援は、テンプレートに会社名や価格を入力することだけではありません。
私が買い手FAとして支援する際には、トップ面談、IM(企業概要書)、決算書、仲介会社からの情報など、その時点で得られている情報をもとに、買い手企業と一緒に論点を整理します。
売り手が何を重視しているのか、買い手として対象会社の何を評価しているのか、どこまでの価格なら検討できるのか、DD前の段階で何を留保しておく必要があるのか、独占交渉をどのように求めるのか、競合買い手がいる場合にどのような条件や伝え方が適切なのかを検討します。
必要であれば、LOI本文だけでなく、別添資料や買い手経営者からのメッセージを使うこともあります。
一方で、売り手に選ばれることだけを目的に、根拠の薄い高値や、後で守れない条件を提示しないようにすることも重要です。
売り手に選ばれることと、買い手にとって無理のない条件でM&Aを進めること。その両方を考えてLOIを組み立てる必要があります。
買い手FAとM&A仲介会社の役割の違いについては、「M&A仲介会社と買い手FAの違い|会社買収での役割と使い分け」で詳しく解説しています。
まとめ|LOIは「この条件なら買いたい」を伝える書面
M&Aの意向表明書(LOI)は、買収価格だけを知らせる書面ではありません。
買収意思を具体的に示し、主要な条件の大枠をすり合わせ、DDへ進む前提を整え、案件によっては独占交渉につなげる役割があります。
そのうえで、買い手として、なぜ対象会社を買いたいのか、どの程度の価格を提示するのか、どのような取引を想定しているのか、買収後に何を大切にするのか、売り手の希望にどこまで応えられるのかを整理して伝えます。
LOIを提出するタイミングや、価格・条件の書き方に一律の正解があるわけではありません。
相対方式か入札方式か、競合する買い手がいるか、トップ面談を終えているか、どこまで情報を得られているか、売り手が何を重視しているかによって、何をどこまで提示するかは変わります。
価格で競合を上回れなくても、売り手が大切にしていることを理解し、自社が実現できる内容を具体的に伝えることで選ばれることがあります。
一方で、LOIで選ばれることだけを目的に、後で守れない約束や根拠の薄い高値を提示すれば、その後の交渉で信頼を失います。
LOIは、その後のDDや条件交渉まで含めて、自社がどのような条件なら買収を進められるのかを整理し、売り手へ伝える書面です。
会社買収の条件整理から、買い手企業の立場で支援します
弊社では、専任のM&A担当者を置いていない中小・中堅企業を中心に、買い手企業の立場から会社買収を支援しています。
意向表明書(LOI)の作成だけでなく、案件評価、買収価格や条件の整理、トップ面談、デューデリジェンス(DD)、契約・クロージングまで、案件ごとに確認すべき事項やリスクを整理し、買収判断に必要な検討をサポートします。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別案件についての法務・税務その他の専門的判断を示すものではありません。
